エフェクターの基礎知識②:コンプレッサー&リミッターの基礎を理解しよう!
こんにちは、OTOxNOMA認定講師の鎧都万雄大です。
今日は、コンプレッサー&リミッターの基礎知識について解説していきます。
- コンプレッサー&リミッターとは?
- コンプレッサーとリミッターの違い
- コンプレッサーの種類
- コンプレッサー&リミッターの使用例
- 各種パラメータの解説
DTMではイコライザーと並んでよく使われるエフェクターですが、その使い所や操作方法など難しく感じてらっしゃる方も多いかと思います。
そこで今回は、
コンプレッサーやリミッターってどんなことができるエフェクターなのか?
目指す音を作るためにコンプレッサーやリミッターは必要なのか?
それらを正しく判断できるようしっかりと解説していきますので、ぜひご活用いただければ幸いです。
※こちらの内容は動画でも学習することができます。
エフェクターの基礎知識②:コンプレッサー&リミッターの基礎を理解しよう!
コンプレッサー&リミッターとは?
コンプレッサーやリミッターは、音のダイナミックレンジをコントロールするためのエフェクターです。
音の強弱のことを「ダイナミクス」と呼び、一番小さな音から一番大きな音までの差のことを「ダイナミックレンジ」と呼びます。
音量差が大きければ「ダイナミックレンジが広い」、小さければ「ダイナミックレンジが狭い」と表現します。
ダイナミックレンジを広く取ることはドラマチックなサウンドを実現する上で重要なことです。
しかし、あまりにも広すぎると小さな部分が聞き取りにくくなるなどの弊害が出ることもありますので、その差を狭める処理が必要となるケースがあります。
また、ダイナミクスが比較的安定して聴こえていても、瞬間的に音量が飛び出てしまう(=突発的なピークがある)場合、不要なダイナミックレンジの広がりを抑えるため処理が必要な場合もあります。
そのためのエフェクターがコンプレッサーとリミッターです。
コンプレッサーやリミッターは主にダイナミックレンジを狭める方向で働き、小さな音を聞き取りやすくしたり、突発的なピークを抑える目的で用いられます。
コンプレッサーやリミッターによって狭められたダイナミクス(=圧縮)の量は「ゲインリダクション」と呼ばれ、単位は「デシベル(dB)」で表します。
ゲインリダクションは、コンプレッサーやリミッター内のメーターで確認できるものがほとんどです。
コンプレッサーとリミッターの違い
コンプレッサーとリミッターはいずれもダイナミックレンジを狭めるエフェクターです。
基本的な動作原理もほとんど同じですが、それぞれ少しだけ働きが違うので解説していきます。
コンプレッサー(Compressor)
ダイナミックレンジを狭める際に、動作に関わるパラメータをある程度調整することができます。
そのため、ダイナミックレンジを狭めるだけでなく、時間経過による音量の変化(=エンベロープ)をある程度コントロールすることができます。
音の立ち上がりや、余韻の長さを楽曲に合わせて整えたいときにも使え、後述の「レシオ」「アタックタイム」を極端に設定することでリミッター的に使うとこともきます。
リミッター(Limiter)
ダイナミックレンジを狭める際に、動作に関わるパラメータの一部が固定化され調整することができません。
後述の「レシオ」「アタックタイム」については極端な値で固定化されているため、ピークを抑えることに特化しています。
コンプレッサーの種類
ひとくちにコンプレッサーといっても様々な種類(=タイプ)が存在します。
いずれも「ダイナミックレンジを狭め、聴きやすくする」という役割自体は変わりませんが、その効果を得るために様々な仕組みが考案され、それぞれ動作に細かい違いがあります。
その違いがサウンドに特色をもたらし、目的に応じて使い分ける一つの指針となっています。
コンプレッサーの種類による特性の違い
ここからは、コンプレッサーにおける5つの代表的なタイプとそれぞれの特性ついてご紹介していきます。
- VCAタイプ
- OPTタイプ
- TUBEタイプ
- FETタイプ
- Digitalタイプ
■ VCAタイプ
VCAとは「Voltage Controlled Amplifier(電圧制御増幅)」の略で、読み方はそのまま「ブイシーエー」となります。
このタイプのコンプレッサーは、動作が速く音質変化も少ないため自然なサウンドに仕上がります。
そのため、複数のトラックをまとめたバスにインサートして音の馴染みをよくするためのコンプ(=通称バスコンプ)としてよく用いられます。
ハードウェアでは、主にミキシングコンソールに備え付けのコンプレッサーとして採用されている方式です。
SSL社、API社などのミキシングコンソールに備え付けられたコンプレッサーをシミュレートしたプラグインが多数リリースされています。
■ OPTタイプ
音を光に変換して処理する「Optical(光学式)」コンプレッサーで、頭3文字をとって「オプト」と呼ばれます。
動作が非常に緩やかなのが特徴で、音の立ち上がりにほとんど影響を与えず自然にダイナミクスを揃えることができます。
一方で、ドラムやパーカッションなど立ち上がりが速い音には反応できませんので注意が必要です。
ハードウェアでは、Teletronix社の作った「LA-2A」という機種が代表格で、それをシミュレートしたプラグインも各社からリリースされています。
LA-2Aには後述のアタックタイムやリリースタイム、レシオなどのコンプレッサーによくあるパラメーターが無く、操作できるパラメータが少ないことも特徴の一つといえるでしょう。
■ TUBEタイプ
「Vacuum Tube(真空管)」を用いたコンプレッサーで、そのまま「チューブ」と呼びます。
動作が速く、ダイナミクスに変化を与えずとも音質がわずかに変化する特性があります。
いわゆる通すだけでも音が変化するコンプレッサーです。
内蔵される真空管によって元の音にはなかった倍音成分が加わることでそのような変化が生まれます。
入力される音量が大きければ大きいほど音色の変化も大きくなるため、自然なサウンドに仕上げたい場合には使用を避けた方が良いでしょう。
ハードウェアでは、Fairchild社の作った「Fairchild660/670」という機種が代表格で、これも各社がシミュレート、プラグイン化されています。
■ FETタイプ
「Field Effect Transistor(電界効果トランジスタ)」という電子部品が使われているコンプレッサーで、各語の頭文字をとって「フェット」もしくは「エフイーティー」と呼ばれます。
動作が極めて速く、音質もわかりやすく変化します。
音の立ち上がりが鋭い音でも処理ができるので、積極的に音のニュアンスを変えていくこと(=音作り)にも長けています。
ハードウェアでは、UREI社の「1176」という機種が代表格で、76と名のついているコンプレッサーは、もれなく1176のシミュレートと考えて差し支えないほどに多くのメーカーがプラグイン化しています。
■ Digitalタイプ
Digitalタイプは、これまでにご紹介したいずれのタイプにも属さないコンプレッサー。
そのほとんどは、最初からソフトウェアとして何かしらのコンセプトをもって作られています。
比類なき正確性で動作が速く、音質の変化も極めて少ない上に、パラメーターが豊富で細かく設定できるなど、特性は多岐にわたります。
様々な特性がありますが、基本的には扱いやすく動作に極端なクセがないものがほとんどです。
そのコンセプトは様々ですが、例えば下記のようなものです。
- 極端な設定にしても音質が破綻しない
- 動作タイプを自由に切り替えられる
- 特定の楽器に特化した作りにしてパラメータを減らす
などなど…
どのタイプにも言えることですが、特にDigitalタイプは動作の特性やコンセプトを理解することでより効果的に使うことができます。
コンプレッサー&リミッターの使用例
コンプレッサーとリミッターはどのようなケースで使われるのか一部取り上げて見てみましょう。
コンプレッサーを使うケース
- ケース1:大まかな音量を揃える
- ケース2:音の立ち上がりをコントロールする
- ケース3:音の余韻を持ち上げる
■ ケース1:大まかな音量を揃える
生演奏のベースやボーカルなどはダイナミックレンジが広くなりがちなので、そのまま楽曲に追加してしまうと聴こえにくい部分が出てしまいます。
そのような場合はコンプレッサーでダイナミックレンジを狭めることで、安定して聴きやすいトラックにすることができます。
このケースでは、OPTタイプのコンプレッサーがよく使われます。
コンプレッサーなし
コンプレッサーあり
■ ケース2:音の立ち上がりをコントロールする
後述するアタックタイムの設定によっては、音の立ち上がりを強調しアタッキーな印象に変化させることもできます。
このケースでは、FETタイプのコンプレッサーがよく使われます。
コンプレッサーなし
コンプレッサーあり
■ ケース3:音の余韻を持ち上げる
音の余韻をしっかり聴かせたい場合、後述するリリースタイムを早めに設定することで相対的に余韻の音量が持ち上がり聴こえやすくなります。
コンプレッサーなし
コンプレッサーあり
リミッターを使うケース
リミッターを使うケースは、ほぼほぼピークを抑えることに限定されます。
コンプレッサーのケース1では、OPTタイプのコンプを使用してボーカルのダイナミックレンジを狭めました。
そのため、音の立ち上がりについてはまだ突発的なピークが残っています。
このままでは他のトラックと重ねた際に、マスタートラックでクリッピングを起こす可能性もあります。
そんな場合はリミッターを使い、ピークをある程度抑えてあげることで事前に回避することもできます。
リミッターなし
リミッターあり
各パラメータについて
コンプレッサーやリミッターには以下のようなパラメータがあります。
- スレッショルド(Threshold)
- レシオ(Retio)
- アタックタイム(Attack Time)
- リリースタイム(Release Time)
- ゲイン/メイクアップ(Gain/MakeUp)
それぞれのパラメータでどんな変化が起こるのか解説していきます。
以下の音にエフェクトをかけてみますので、変化を聴き比べてみましょう。
エフェクトなし
■ スレッショルド(Threshold)
どれくらいの音量からコンプレッサーが動作し始めるか、しきい値を決めるパラメータです。
一般的に、ゼロから−(マイナス)方向に設定し、値が低いほど小さな音量でもコンプレッサーが動作します。
なお、後述する「レシオ」が設定されていなければ、どれだけスレッショルドを深く設定しても動作しません。
■ レシオ(Retio)
スレッショルドを超えた音の音量を、どの程度抑えるか(圧縮するか)を決めるパラメータです。
「2:1」など比率で表され、この場合スレッショルドを超えた音量は2分の1に圧縮されることになります。
同様に、「4:1」では4分の1、「60:1」では60分の1というように、値が大きくなるほど強く圧縮されます。
レシオの値が大きければ、スレッショルドを浅く設定しても強く圧縮され、よりリミッターに近い働き方をします。
リミッターはレシオが「10:1」以上の極端に高い値に固定されている状態です。
とりわけブリックウォールリミッターと呼ばれるものはレシオが「∞:1」に設定されており、スレッショルドを超えた音はそれ以上の音量にならないよう圧縮されます。
コンプレッサーやリミッターのタイプによっては強い圧縮を行うと音質を著しく変化させることもあるため、慣れないうちは浅めの設定を心がけましょう!
レシオが2:1
レシオが100:1
■ アタックタイム(Attack Time)
スレッショルドを超えてからコンプレッサーが動作し始めるまでにかかる時間を決めるパラメータです。
コンプレッサーによって設定できる値に差はありますが、一般的に1000分の1秒(msec)単位で指定し、値を大きく(遅く)することでアタック感を残したり、逆に小さく(速く)することでアタックを潰すことができます。
リミッターではアタックタイムはゼロの状態で固定となり、スレッショルドを超えた瞬間に動作し始めます。
アタックタイムが小さい
アタックタイムが大きい
■ リリースタイム(Release Time)
スレッショルドを下回ってからコンプレッサーが動作しなくなるまでにかかる時間を決めるパラメータです。
こちらもアタックタイム同様、一般的に1000分の1秒(msec)単位で指定します。
値を大きく(遅く)することでスレッショルドを下回る小さな余韻をさらに抑えることができ、逆に小さく(速く)することでスレッショルド以下の余韻には影響が出ないようにすることができます。
リリースタイムが小さい
リリースタイムが大きい
■ ゲイン/メイクアップ(Gain/MakeUp)
ダイナミックレンジを抑えることで下がった音量を底上げするためのパラメータです。
値が大きいほど音量が大きく、逆に小さいほど音量は下がります。
単に音量を上げ下げするだけで、フェーダーによるボリュームの操作と同じ効果と考えていただいて問題ありません。
リミッターでは、ゲインのパラメータがない場合もありますが、その場合、スレッショルドを下げると自動でその分の音量を上げる機能が付いていることがほとんどです。
ゲインを±0dB
ゲインを+6dB
まとめ
というわけで、コンプレッサーとリミッターについて詳しく解説しました。
慣れないうちは難しく感じてしまうコンプレッサー&リミッターですが、今日ご紹介した使用目的と特徴を意識しながら何度も使ってみることで徐々に感覚が掴めてくると思います。
プラグインならばどんなセッティングをしてもすぐに元に戻せますので、恐れず練習してみてください!
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