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弦楽器の楽器法⑥:弦楽器の演奏法とアーティキュレーションを理解しよう!後編

こんにちは、OTOxNOMA認定講師・作曲家の吉岡竜汰です。

今日は、擦弦楽器における右手のテクニック、すなわちボウイング(運弓)を中心とした各種演奏法について解説していきます。

  • ボウイング(運弓)について
  • ボウイングのルール
  • ボウイングによる各種演奏テクニック
  • 弦楽器のその他の演奏法

弓を使った演奏表現は非常に多彩で、なめらかなレガートから弾むようなスタッカートまで幅広い表現力を持っています。

弦楽器の演奏において最も重要なテクニックとなりますので、しっかりと理解していきましょう!

 

弦楽器の楽器法⑥:弦楽器の演奏法とアーティキュレーションを理解しよう!後編

弦楽器の楽器法⑥:弦楽器の演奏法とアーティキュレーションを理解しよう!後編

ボウイング(運弓)について

ボウイングとは、「弓」を扱うテクニックのこと。

日本語では「運弓」といいます。

擦弦楽器では、ピチカートを除くほぼ全ての演奏を弓を用いて行います。

したがって、ボウイングこそが演奏表現の要といっても過言ではありません。

「上げ弓」と「下げ弓」とは?

ボウイングには、2種類のテクニックがあります。

「上げ弓」「下げ弓」です。

  • 上げ弓:弓の先端部分から手元部分へ向かうように動くボウイング
  • 下げ弓:弓の手元部分から先端部分へ向かうように動くボウイング

ボウイングを楽譜で指示する場合には以下のような記号を用います。

「上げ弓」と「下げ弓」の特徴

「上げ弓」「下げ弓」には、それぞれ演奏上の特徴があります。

以下の通りです。

  • 上げ弓:弾き始めが弱く、後半が強くなりやすい
  • 下げ弓:弾き始めが強く、後半が弱くなりやすい

弓を持つ手元に近いほど力が入りやすくなるため、このような傾向が生まれるのです。

これを利用して、

  • 優しくふわっとした立ち上がりで演奏したい場合は「上げ弓」
  • 強いアクセントやフォルテッシモが欲しい場合は「下げ弓」

といった具合に、求めるサウンドに応じて弓の上げ下げをコントロールしながら演奏します。

ちなみに、編曲者がボウイングを指定することは稀で、実際には指揮者やコンサートマスター(コンサートミストレス)が中心となってボウイングを決定していきます。

ですから、よほどご自身が弦楽器に精通している場合を除いては、奏者さんに委ねるのが得策でしょう。

水平に弓を構える楽器の「上げ弓」「下げ弓」

「上げ弓」「下げ弓」というくらいですから、弓を「上げ」「下げ」する動作が基本となります。

実際、ヴァイオリンとヴィオラに関してはそのように演奏を行っていることは想像に難くありませんね。

一方、チェロやコントラバスでは弓を水平に動かすため、「上げ」「下げ」の概念がわかりにくいと思います。

しかし、考え方はヴァイオリン、ヴィオラのそれと同じ。

  • 「先端→手元」の運動なら「上げ弓」
  • 「手元→先端」の移動なら「下げ弓」

となります。

ボウイングのルール

ボウイングには、以下のようなルールがあります。

  • スラー(レガート)が指示されている部分は一弓で演奏する
  • それ以外は1音ごとに弓を返す(上げ下げを切り替える)

スラーやレガートを指示した場合、一弓でどの程度の長さのフレーズが演奏可能なのかはケースバイケースです。

判断の参考になりそうなポイントをまとめておきましたので、ご活用ください。

  • 強く演奏するほど弓の運動が大きくなる(大きく弓を消費する)
  • 最も弓を消費するのはデタシェ奏法(後述)
  • 最も弓を消費しないのは弱く演奏するロングトーン
  • 弓の長さはヴァイオリンが最も長く、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの順に短くなる
  • 慣れないうちはクラシック作品を参考にするのがオススメ

ボウイングによる各種演奏テクニック

ここからは、ボウイングによる各種演奏テクニックについて解説していきます。

  • デタシェ
  • スピッカート
  • マルテラート
  • 弓のトレモロ

デタシェ(グランドデタシェとも)

弓を大きく使って1音を演奏するテクニックです。

強いアクセントやフォルテッシモなど、力強い音が欲しい場合に使用します。

有名なクラシック作品「新世界」、17秒あたりからのヴァイオリンの弓の動きに注目!

デタシェ奏法は、弓を大きく使って1音のみを強く演奏する奏法のことを指します。

したがって、スラーなど一弓で2音以上演奏する場合や、弓の速度が遅く(=弱く)演奏する場合はデタシェとは呼びませんので注意しておきましょう。

また、2音以上連続でデタシェが指示された場合は、上げ弓を使わず、下げ弓を連続させて演奏することもよくあります。(先ほどの動画をご参照ください)

その場合、下がりきった手元を再度弦のそばに戻す時間が必要なため、高速の演奏は不可能、かつ1音ごとに音が途切れることになります。

その代わり、上下往復でのデタシェよりも力強く大きな音量を得ることができ、特に重音を用いた際には絶大な効果を生みます。

スピッカート

擦弦楽器の弓と弦は、それぞれ弾力に富んでいます。

それを利用して、「U」字ないし「V」字型に弓を弾ませるようにして演奏するスタッカートを「スピッカート」といいます。

短く軽やかな発音が可能ですが、音量は控えめ。

大きな音量で演奏することは難しいため、「mp」よりも大きなダイナミクスが指定されることは稀です。

記譜の際にはスタッカート記号を用いるだけでも十分ですが、さらに「Spiccato」と書いておくと安心でしょう。

スピッカートの演奏の様子

マルテラート(マルトレとも)

こちらもスタッカートの一種ですが、弓を弾ませるスピッカートとは対照的に、弓を弦から離さず腕や手首の力で音を短く切って演奏します。

出だしからはっきりと短く発音し、楽器を響かせるのが特徴です。

そのため、大きな音量での演奏も可能となっています。

記譜の際は通常のスタッカート記号、あるいはスタッカーティッシモという楔(くさび)のような記号を書いた上で、「Martellato」と書き加えることで指示します。

 

マルテラートの演奏の様子(13秒あたりから)

弓のトレモロ

弓を弦から離さず、右手の小刻みな往復運動で細かく音を刻む奏法です。

ガサガサした弦楽器の摩擦感が強調されるサウンドになります。

特にクレッシェンドやデクレッシェンドなど強弱の変化が伴う演奏表現との相性が良く、様々な楽曲でその例を見ることができます。

トレモロの参考音源

弦楽器のその他の演奏法について

ここからはボウイングの技術ではないものの、弦楽器の演奏法として覚えておきたい2種の演奏法をご紹介します。

  • ピチカート
  • ミュート

ピチカート

指を使って弦を弾く奏法です。

ポンポンと弾むような可愛らしい音色が特徴で、そのサウンドは様々な楽曲で用いられてきました。

世の中には、楽曲全編にわたりピチカートで構成された楽曲も存在するほどです。(後ほどご紹介する「ピチカートポルカ」をご参照ください。)

記譜する際は「Pizzicato」あるいは「Pizz.」と書き、後者の方がよく用いられます。

また、ピチカートから弓での演奏に戻す場合は「Arco(アルコ)」と記譜すればOKです。

 

終始ピチカート奏法で構成される「ピチカートポルカ」

ミュート

「弱音器」と呼ばれる櫛(くし)状の器具を駒上に取り付けて演奏する奏法です。

その名の通り音量をセーブする意味合いもありますが、金管楽器のミュート同様に音色の変化を求めて使う場合が多いです。

「弱音器」の着脱を指示する場合は、金管同様以下の記述を行います。

  • 付ける時→「Con Sordino」
  • 外す時→「Senza Sordino」

弱音器の装着には時間がかかるため、BPM80で数えた場合におよそ8拍分(4/4拍子なら2小節分)の休みを確保しておくと安心でしょう。

外す時は、装着時の半分程度の休みがあれば問題ありません。

ミュートのサウンド比較動画

まとめ

というわけで、2記事にわたり弦楽器の演奏法について解説してきました。

左手の運指と右手の運弓、奏法を掛け合わせることでじつに多彩な表現を生み出す弦楽器。

その全てを一度に把握するのは難しいかと思いますが、少しずつ理解を深めていただければ幸いです。

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