”音”に関わる人全員に観て欲しい!映画『ようこそ映画音響の世界へ』が素晴らしすぎた。
こんにちは、作曲家・稲毛謙介(@Ken_Inage)です。
突然ですが、『ようこそ映画音響の世界へ』という映画をご存知ですか?
2020年9月現在公開中の映画で、表題の通り映画音響の制作の舞台ウラを描いたドキュメンタリーです。
映画ファンや映画音響関係者はもちろん、サウンドに関わる人すべての方に観ていただきたいすばらしい映画だと感じましたので、この機会にご紹介しようと思います。
少し長文になっちゃいましたが、記事後半に世界基準でのサウンド作りに関するぼくなりの見解も綴ってますので、ぜひ楽しんでいただければ幸いです!
『ようこそ映画音響の世界へ』とは?
この映画では、100年にも及ぶハリウッド映画の「音」の歴史、職人たちの並々なるこだわりと苦悩、現在のような高品質なサウンドがいかにして作られるようになったのかが鮮明に描かれています。
- スターウォーズ
- パイレーツ・オブ・カリビアン
- 2001年宇宙の旅
- 風と共に去りぬ
- キング・コング
- 地獄の黙示録
などなど、総勢30近い名作たちが登場。
歴史的名作を彩る音がいかにして作り上げられていったのか?
その裏話が、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグといった著名な映画監督、ウォルター・マーチ、ベン・バート、ゲイリー・ライドストロームなどの著名サウンドデザイナーたちによって語られます。
我々音にたずさわる者にとっては、まさに宝の山のような話の数々。
途中、サラウンド環境での音響DEMOなどもありますので、映画館での上映中に観に行かれることを強くオススメします!
映画の音は錯覚のアート
“映画の音は錯覚のアートだ。スクリーンの中の音が本物に思える“⠀- ベン・バート -⠀
劇中登場する印象的なセリフですが、この映画はまさに、音のスペシャリストたちによる「錯覚のアート」がどのように作られているか、その舞台ウラを垣間見ることができます。
映画を観るとき、その映像や音楽に関心を寄せる人は少なくないと思いますが、ボイスや効果音まで含めた音響全体にまで注目する人はそう多くありません。
そしてどうやらそれは、我々視聴者だけでなく、かつてのハリウッドにおいても同じだったようです。
映画の序盤から中盤にかけて、映画音響の歴史が語られます。
- 音がなかったサイレント映画の時代
- オペラやミュージカルのように、劇場内で音がリアルタイム演奏された時代
- 初めてフィルム内に音声が収録された時代
- 効果音による積極的な演出が始まった時代
- モノラルからステレオへそしてサラウンドへ
この過程で、制作会社や出資者などから
「音は重要じゃない」
などといった声も聞かれ、十分な予算を割いてもらえないことがしばしばあったそうです。(工数をかけすぎてあやううくクビになりかけたというエピソードも聞くことができます。)
実際、一時期のハリウッドでは工業製品のように映画が量産され、効果音も各スタジオが所有しているライブラリを何度も使い回しながら、能率重視の制作が行われていた時期もあったようですね。
しかし、優れた映画監督たちは皆、音響効果の重要性を理解し、その可能性の探求に尋常じゃないほどのこだわりを持っていました。
また、それに応えるように、優秀な監督には優秀なサウンドエンジニアがついていた。
彼らの並々ならぬ努力と挑戦によって、我々が最高のエンターテイメントを享受できていることを改めて実感することができる映画です。
世界レベルの音はこうやって作られる
ここからは、ぼくが学んだ「世界レベルの音を作るために必要なこと」を抜粋してお話しようと思います。
世界トップレベルとはなんなのか?日本と世界の違いなど、少しでもお役に立てれば幸いです。
徹底的なこだわりに耐えられるだけの予算の確保
いきなり事務的な話で恐縮ですが、「徹底なこだわりに耐えられるだけの予算の確保」は本当に重要なことだと感じました。
『スターウォーズ』の音響制作では、ベン・バートが1年もの歳月をかけてアメリカ各地を旅しながら、制作に必要な音素材を集めていたそうです。
当然ながら、その間もスタッフの人件費は発生しますので、それに耐えうるだけの、しかるべき予算を捻出しなければできない芸当です。
スタッフが長期間その仕事に専念できるだけの、そして徹底的にこだわれるだけの十分な予算の確保。
世界で勝負できる作品を作るためには、絶対に欠かすことのできない条件ですね!
完全分業制
アメリカでは、徹底的な分業体制が敷かれています。
一般的に、効果音ならば、「SFX」「フォーリー」「環境音」の3種類のサウンドが必要ですが、日本ならばせいぜいこの3つをそれぞれ分業する程度に止まっている気がします。
場合によっては、数名のスタッフで上記3つをすべてまかなってしまう場合もあるかもしれません。
しかし、ハリウッドは全く違いました。同じ「SFX」でも、
- 銃声だけを担当する人
- 飛行機の音だけを担当する人
など、徹底的に細かい分業体制が敷かれています。
それぞれが、それぞれの持ち場を徹底的に追求するからこそ、個々人の限界を突破した恐るべきシナジーが得られる。
世界と戦うには、徹底的な分業制が必要であることを再確認しました。
理想を叶えるのはいつもアイディア
もちろん、予算や分業だけで世界基準の音が作れるわけではありません。
世界トップクリエイターたちは、圧倒的なアイディアでぼくらを魅了します。
同じく『スターウォーズ』の例でお話するならば、ジョージ・ルーカスは、スターウォーズの効果音はすべて「現実に存在する音」を素材として用いることにこだわったそうです。
なんと、SF映画の金字塔ともいえるあの作品の効果音に、シンセサイザーは一切使われていないんです!(これは驚きでした!)
それを支えたのは、ベン・バートの類いまれなるアイディアと探求でした。
R2D2の声がどのようにして作られたのか?それを知ることができるだけでも、この映画を観に行く価値はあります。
フェーダーは演出にこそ用いるべし
映画では、ボイス、効果音、音楽合わせて、数百〜数千もの音が仕込まれています。
それらを通り一辺倒に鳴らしてしまったのでは、音が飽和するだけ。
- 今何を聞かせたいのか?
- どう演出したいのか?
- 観客にどんな感情を抱かせたいのか?
それによって、常時フェーダーバランスを調整し、積極的に演出していきます。
サウンドデザインではごくごく当たり前のことなんですが、音楽では?
少なくともぼくは、フェーダーのオートメーションを書くのはヴォーカルトラックと一部のパートくらいで、その他のトラックは終始一律のフェーダー位置にとどまってしまっていました。
音楽のミックスおいても、常に上記3点を念頭において積極的に「演出」すべきだし、そのためにこそ積極的にフェーダーを使うべきだと痛感しました。
イマーシブオーディオの可能性
劇中、モノラルからステレオ、そしてサラウンドへの変遷が描かれます。
映画内では5.1chサラウンドまでしか言及されていませんでしたが、現在は高さの概念まで含めた3D音響が注目されています。
じつは、映画音響をモノラルからステレオへ導いたのは、音楽業界だったそうで、サラウンド導入のアイディアも、冨田勲先生が手がけた『惑星』の4chサラウンド版にインスパイアされてとのこと。
本来、音響という意味において、映画よりも先に音楽が先進的なテクノロジーを導入していたことがわかりますね。(てっきり映画が先だと思っていた・・・。)
そういう意味でも、イマーシブオーディオによる新しい音楽表現を追求することには、ぼく自身大いなる可能性を感じています。
ちょうど昨日発表されましたが、Appleのワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro」では、iOS14と連携してイヤフォンによる仮装3D音響が実現されるようです!
住宅事情によりなかなか普及が進まなかったコンシューマ向けイマーシブオーディオですが、新たなテクノロジーによってその可能性は無限大に広がっていると感じています!
楽しみですね!
鳥肌が立てば成功
最後に、ぼくが最も印象に残った言葉をご紹介します。
「鳥肌が立てば成功」- アンナ・ベルマ ー-
劇中、アンナがミックスダウンをしているシーンが描かれるのですが、その演出に(自分自身の)鳥肌が立てば、ようやく「成功」だと彼女は言っていました。
極めて本質的かつ、具体的な判断基準だと思います。
いつもより上手くできたとか、クライアントが喜んでくれたとか、そんな基準で仕事をしていたら絶対に世界では通用しない。
鳥肌が立つまでやる!
これが世界の基準なんだとまざまざと見せつけられました。
思い返せば、今まで「鳥肌」を基準に仕事をしたことがあっただろうか?
結果的に鳥肌が立つことがあったとしても、それを「ゴール」としていただろうか?
決してYesとは言えない自分がいます。
まずはここから意識を変えていかねばなりませんね!
⠀
まとめ
というわけで、『ようこそ映画音響の世界へ』の素晴らしさについて、アツく語らせていただきました。
冒頭も申し上げたとおり、音に携わる方は絶対観ていただきたい映画です。
残念ながら上映している映画館はかなり少なく、都内では、9月17日現在渋谷、新宿、立川の3館だけです。(9月25日からは豊洲と昭島でも上映されるようです。詳しくはコチラ。)
ぼくは新宿と立川でそれぞれ1回ずつ観ましたが、シネマシティ立川さんがめちゃめちゃ音が良かったのでオススメです!
ぜひ次の連休中にご覧になってはいかがでしょうか?
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