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恋い焦がれていた独立が軽く地獄だった話

こんにちは、作曲家・稲毛謙介(@Ken_Inage)です。

今日は、ぼくが独立から2年間、超絶ビンボーだったときのお話をしたいと思います。

どのような経緯でイナゲは極貧生活へ陥っていったのか?

その原因はなんだったのか!?

当時のことを振り返りながら、ぼくが陥った致命的なミステイクについて深掘りしていきたいと思います。

ぼくの経験をもとに、同じ悩みを持つクリエイターさんが救われてくれたら嬉しいです!

 

Episode1:待ち受けていた試練

Episode1:待ち受けていた試練

長年の夢だった”独立”

2011年、ぼくはそれまで勤めていたゲームメーカーを退職し、フリーランスの作曲家として独立しました。

正確に言うと、独立から2年は作家事務所に所属していたのでフリーランスではありませんが、個人事業主としてスタートを切ったことに間違いはありません。

なぜ独立したかというと…

独立したかったからです。(計画性ナシ)

実はぼく、ゲームメーカーに就職する時点で「5年キャリアを積んだら独立する!」と決めて入社していました。

会社を経営している今となっては、過去の自分の超絶ブラック新入社員っぷりに驚きを隠せませんが、中学生の頃からの夢だった「作曲家として生きていく」という野望を叶えるためには、独立は必須条件だと考えていたのです。(前職の経営陣のみなさま、すいませんでしたゆるしてください。)

理想と現実のギャップを思い知る

結局様々な事情もありつつ、会社を丸6年勤め上げて独立することになったのですが、かねてから恋い焦がれていた独立音楽家の道は、決してぼくが思い描いていたような華々しいものではありませんでした。

・がむしゃらに頑張ってもさっぱり上がらない売上
・極限まで切り詰めてもかさむ経費
・日に日に減っていく貯金
・追い打ちをかけるようにやってくる税金・保険料

メーカー勤め6年で、実力も実績もしっかり身につけたつもりでしたし、事実、ぼくが作る作品は高く評価され、事務所所属当初から即座に主力メンバーとして最前線で仕事を任されるようになっていました。

それなのに暮らしは良くなるどころか日々悪化の一途を辿る一方。みるみるうちに身も心もズタボロになっていきました。

なんでこんなことになってしまったのか!?

そこには、夢見る独立系クリエイターが陥りがちな大きな罠が潜んでいたのです。

 

Episode2:貧乏への片道切符

Episode2:貧乏への片道切符

作曲家の登竜門「楽曲コンペ」

独立当初、ぼくが毎日のように勤しんでいた仕事はメジャーアーティストさんへの楽曲提供を前提とした”コンペ”でした。

実は音楽業界(特にJ-Pop業界)では、楽曲のコンペが盛んに行われています。

新しくリリースする楽曲を広く公募し、その中からコンセプトに合致したものを選出して採用するのです。

音楽業界のコンペは、楽曲が採用されない限りギャランティが支払われることはありません。

しかも、どれくらいの頻度で採用されるのか、いつ、いくらお金が入ってくるのかは全くの未知数。

ビジネスとして取り組むにはあまりにも不確定要素が多すぎます。

それなのに、なぜかぼくは

「クォリティの高い作品出し続けてればいつか必ず採用される!」

「とにかく数だ!数を出すことが最も確実な道だ!」

と盲目的に信じ切って、ひたすらコンペに参加していました。

今考えれば非常に浅はかな話なのですが、上記のようにぼくが盲目的に信じ切ってしまった理由は2つあります。

イナゲを盲目にした2つの理由

1つは、所属事務所の社長がそのように言っていたからです。(人のせいかいw)

全く土地勘のないJ-Pop業界でしたから、何をやったら仕事になるのかチンプンカンプン。

だから、少なくとも社長の言うことを聞いていれば間違いないだろう!と信じて取り組んでいたのが原因です。

今になって思えば、社長はぼくを鼓舞すべくそう言ってくれたんだと思いますが、未熟なぼくはその言葉の表面だけしか捉えられないほどアホでした。

それともう1つ、むしろこちらの方が大問題だったかもしれません。

それは、ゲームメーカーを退職する直前に、めでたくコンペで1曲採用されてしまったことです。

しかも、それまでコンペにはわずか4回しか参加したことがなかったので、非常に高い打率と言えます。

退職直前でしたので、それはそれは幸先の良いスタートかのように見えました。しかし、このことがイナゲを過信させ、貧乏のどん底へ突き落とすきっかけになるのです!

 

Episode3:成功の裏に潜む致命的なマインド

Episode3:成功の裏に潜む致命的なマインド

根拠のない自信と大きな誤算

コンペで採用されたことの何がいけなかったのかというと、「この確率で採用されるなら十分食っていける!!」盛大に勘違いしてしまったことです。

(たった1回で過信してしまうぼくもどうかと思いますが…。)

おバカなぼくは、4回に1回採用されるということは、単純計算で25%の確率で採用されるはず!と考えてしまっていました。

どこにもそんな根拠はないのに。

当然、数打ちゃ当たる!とばかりに、使える時間のほとんどをコンペに投入するようになっていきます。

しかしコンペの実態はほぼ運の世界

クォリティが高ければ採用されるわけでもなく、いい曲だから採用されるわけでもありません。

たまたま、先方が求めている楽曲にマッチすれば採用されるだけ。

かつ、その選考基準も曖昧ですし、参加側にはまず開示されません。

本当にたまたま。ギャンブルで言うところのビギナーズラックみたいなもんです。

蓋を開けてみれば散々な結果に

結局、独立初年度に採用された楽曲数はわずか1曲!

毎日あくせく働いて、たったの1曲!!!

J-Pop業界の相場は、よほどの大御所でない限りおよそ1曲あたり20万円~30万円のギャラ。

そこから事務所の取り分を引かれて手取りはおよそ14万円~21万円ほどですから、当然食っていけるはずもありません。

結果として日に日に貯金は減っていき、わずか1年で底をついてしまいます。

では、コンペでなかったらこのような悲惨な結果を招くことはなかったのでしょうか?

今になって冷静に分析してみると、決してそうではないように思います。

ぼくがこのような事態に陥ってしまった根底には、ある2つの致命的なマインドが潜んでいます。そのマインドを持っている限り、コンペであろうとそうでなかろうと同じ結果を生んでいたのは明らかだろうと考えています。

そして!!

これこそが、夢見る独立系クリエイターが陥りがちな大きな罠の正体だったのです。

 

Episode4:フリーランスを陥れる2つの罠

Episode4:フリーランスを陥れる2つの罠

コンペに猛進し、経済的にも精神的にも疲弊していくぼく。

その裏には、フリーランスを目指すクリエイターが陥ってしまいがちなある2つの罠がありました。それは、以下の2つです。

  • コントロールできない領域にエネルギーを注いでしまったこと
  • ビジネスモデルを理解しないままホイホイと参入してしまったこと

コントロールできることとできないこと

世の中には、コントロールできることとできないことがあります。

コンペの場合、採用されるかどうかは参加者側からコントロールすることができません。

我々クリエイターができることといえば、せいぜい頑張って楽曲を作ることのみ。

この「採用される」という”結果”と「楽曲を作る」という”行動”に因果関係がないものを「自分ではコントロールできない領域」と定義することができます。

コンペの場合、「採用」という結果と「楽曲を作る」という行動に直接の因果関係は何一つないのです。

つまり、ぼくが思い込んでいた「クォリティの高い作品出し続けてればいつか必ず採用される!」「とにかく数だ!数を出すことが最も確実な道だ!」というのは全くの筋違いであり、結果と行動に因果関係がないものをがむしゃらに頑張ったところで、状況を改善することが不可能なのは明白です。

しかしながら、そのことに目を向けずひたすら頑張っちゃってるフリーランスって少なくなかったりします。

(少なくとも当時ぼくの周りにいたクリエイターは皆そうでした。)

ビジネスとして生計を立てていくためには、結果に対して因果関係のある行動にこそエネルギーを注ぐべきだったのです。

参入しやすいビジネスには必ずウラがある

次に、2つ目の罠「ビジネスモデルを理解しないままホイホイと参入してしまったこと」についてお話ししたいと思います。

音楽業界のコンペは、間違いなく発注者に都合の良いビジネスモデルです。

発注者は”完全無料”で楽曲を集めることができる上に、気に入った楽曲があれば何ヶ月、何年でも楽曲をキープしておくことができます。

(その間クリエイターはその楽曲を自由に使用することはできなくなり、且つその対価も受け取れません。)

しかも、楽曲が採用されたとしても、正式にリリースされるまでギャランティが支払われることはありませんし、発注者都合でリリース自体がなくなってしまったとしても、クリエイターは仕事の対価を受け取ることができないのです。

  • 採用されるかどうかは運次第
  • ギャランティは不確定、リリースが完了した後に開示される
  • 仮に採用されても発注者都合で取り消されることがある

これらクリエイターにとって不都合な事情は、当然のようにクリエイターには開示されず、コンペを斡旋する事務所側もそのことを伏せたままコンペ情報を拡散していることも少なくありません。

参入障壁が低く、新人でも大御所でも平等にチャンスが与えられるものだからこそ、その裏に潜むマイナス面をしっかり把握して取り組むべきなのです。

 

まとめ:自分の身は自分で守ることの大切さ

音楽業界のみならず、フリーランスのクリエイターに不都合なビジネスモデルは数多く存在します。

そして、それらが駆け出しのクリエイターにとって仕事を得るための正攻法のように取り扱われているのには大きな疑問を感じます。

少なくともビジネスで安定的に収益を得ていくためには、最低でも以下の5つが保証されていないといけません。

  • 仕事に対する報酬が発生することが確約されている
  • 受注する時点で支払われるギャランティが確定、開示されている
  • 実作業に入る前に、発注者と受注者側で書面での契約が締結されている
  • ギャラが支払われるタイミングは契約書に明示されている
  • 発注者都合のキャンセルの場合でも、しかるべきギャランティがクリエイターに支払われる

それでも、ギャランティに対する情報(金額と支払時期)が曖昧なまま仕事を進めてしまうクリエイターは後を絶ちませんし、きちんと契約を交わさなかったばかりにギャラが未払いのまま逃げられてしまうケースも多く耳にします。

フリーランスである以上、自分の身は自分で守るのが当たり前。少なくとも自分が関わるビジネスの仕組みくらい、きちんと把握してなければ成功するはずもありませんよね。(過去の自分に説教してやりたい…。)

だからこそ、これからフリーランスとして独立を目指す人がぼくと同じ過ちを侵さぬよう、このことをしっかりお伝えしておきたかった。

ぼくと同じような思いをして欲しくないからね!

この記事が少しでも多くのクリエイターの助けになれば幸いです!!

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