リッチで繊細なサウンドを実現!ストリングスのレイヤーに関する考え方とテクニックを解説
こんにちは、作曲家・稲毛謙介です。
今日は、リアルなストリングスサウンドを実現するモックアップテクニックのうち、レイヤーの取り扱いについて詳しく解説していきます。
- レイヤーの基本
- 合理的なレイヤー構造
- レイヤーを使った高度なテクニック
- ストリングスのレイヤリング手順
など、よりリッチで繊細なサウンドを実現するために必要な考え方・テクニックについて学んでいきましょう。
【モックアップに使用する基本的なパラメータの解説はこちら】
※こちらの内容は動画でも学習することができます。
レイヤーの基礎知識
レイヤーの基本
レイヤーとは、複数の音色を重ねて、よりリッチで繊細なサウンドを実現するためのテクニックです。
レイヤーの目的は主に2つあります。
- リッチなサウンドを得ること
- より繊細な演奏表現を可能にすること
前者はいうまでもなく、音を重ねることで得られる豊かな音色を作り出すことが目的です。
後者は、より実際の演奏に近いリアルなアーティキュレーションを得ることが目的といってもいいかもしれません。
例えば、アタックの遅いレガートの音色にスピッカートの音を軽く重ねてあげることで、よりはっきりとしたアタック感が得られるといった具合です。
単に音をリッチにするだけでなく、多様な演奏表現を可能にする上でも、レイヤーは重要な役割を果たします。
レイヤーしてない音
レイヤーした音
サウンドがリッチになったことはもちろん、1つ1つのアーティキュレーションがよりはっきりしたことがお分かりいただけると思います。
合理的なレイヤー構造
ストリングスのレイヤリングは以下の3層構造で考えると合理的です。
- レイヤー1:基本音色 → パートの核となるレイヤー
- レイヤー2:付加音色① → レイヤー1の”音色的な弱点”を補うレイヤー
- レイヤー3:付加音色② → レイヤー1の”演奏的な弱点”を補うレイヤー
それぞれ詳しく解説していきます。
レイヤー1:基本音色
レイヤー1は、そのパートの中核をなす最も大切なレイヤーです。
このレイヤーの音色は、以下の3つの条件を満たしているものが良いでしょう。
- ロングトーンの音量が常に一定で、美しいレガートを再現できる音色
- アタックが遅すぎず、かつキツすぎず、どんなテンポのフレーズにも無難に対応できる音色
- 過度なビブラートなど余計な脚色がなく、シンプルで使いやすい音色
レイヤー1に適しているのはこういう音色です。
音色的には、極めてシンプルで当たり障りのない音色であることがお分かりいただけると思います。
ともすると、単体で聴くにはやや物足りなく感じるかもしれませんが、より豊かなサウンドにするのはレイヤー2、アタック感などを調整するのはレイヤー3の役割となりますので、レイヤー1はあくまで「骨格」と割り切って、とにかくシンプルで当たり障りのない音を選ぶことが重要です。
レイヤー2:付加音色①
レイヤー2は、レイヤー1の音色的な弱点を補うレイヤーです。
シンプルで当たり障りのないレイヤー1の音色を補強することが目的なので、レイヤー2では極力ハデな音色を選んであげた方がよいでしょう。
個人的なオススメは、強めのビブラートがかかった音色です。
ビブラートとはピッチの揺らぎ。ピッチが揺らぐことで、より厚みのあるサウンドを作ることができます。(デチューン効果を生み出す。)
【デチューン効果とは?】
単体のヴァイオリンより、セクションでの演奏の方がサウンドに厚みが出るのは、奏者一人一人に微細なピッチのズレが発生するため。これをデチューン効果といって、シンセリードの音作りなどでも活用される方法です。
強いビブラートがかかった音色は、このデチューン効果と近しい効果をもたらしてくれるため、サウンドに厚みを出すことができます。
レイヤー2に適しているのはこういう音色です
レイヤー1に比べて、だいぶハデな音がしていますね。
レイヤー3:付加音色②
レイヤー3は、レイヤー1の演奏的な弱点を補うレイヤーです。
さまざまなアーティキュレーションを用いてレイヤー1の演奏を補完していきますので、アーティキュレーションの切り替えが可能なキースイッチ音色を読み込んでおくのが最も効率がよいでしょう。
とくにスピッカートは、前述のとおりアタック感の補強などで頻繁に使用しますので、必ず用意しておきましょう。
キースイッチ音色の例
レイヤーを使った高度なモックアップテクニック
レイヤーを用いることで、より多彩な表現が可能になります。
その代表的な例を2つご紹介します。
レイヤーでリアルな音色の変化を再現
レイヤー1はシンプルな音、レイヤー2はハデな音を選ぶとよいということは先ほどお伝えした通り。
これらの音色の違いを活用して、音量の変化に伴う自然な音色の変化を作り出すことができます。
通常、楽器というものは、大きな音で演奏するほど強い音色が鳴り、小さな音で演奏するほど繊細な音がするもの。
レイヤー1とレイヤー2のエクスプレッション値を変える(ブレンド具合を変える)ことで、そのような音色の変化を作り出すことができます。
DAW画面でみるとこのような感じになります。
レイヤー1だけで演奏した場合
レイヤー1とレイヤー2をブレンド具合を変えつつ演奏した場合
後者の方が、音量の変化に伴う自然な音色の変化が得られることがお分かりいただけたと思います。
より自然なアーティキュレーションを表現
アクセントやフォルテピアノなど一部のアーティキュレーションは、エクスプレッションで表現する方が自然な演奏になりやすいことは前回の記事でお伝えした通りです。
とはいえ、エクスプレッションだけでは、アクセントを表現するための十分なアタック感が得られないのも事実。
そんな時は、レイヤー3を活用してアタック感をプラスしてあげましょう。
レイヤー3に用意したスピッカートを重ねてあげることで、レイヤー1&2にはないはっきりしたアタック感を付加することができます。
実際のDAW画面はこんな感じです。
レイヤー1と2だけでアクセントを表現した場合
レイヤー3をプラスした場合
レイヤー3を使ってアタックを突いてあげると、よりはっきりとしたアクセントが得られることがお分かりいただけたと思います。
レイヤーを用いたストリングスの打ち込み手順
ここからは、レイヤーを用いたストリングス打ち込み手順を解説していきます。
具体的な手順は以下の通りです。
- ベタ打ちする
- アーティキュレーションを置き換える
- レイヤー1をレイヤー2にコピー
- レイヤー1&2にエクスプレッションを入力
- さらにレイヤー3で細部を補強する
1.ベタ打ちする
まずはレイヤー1にフレーズをベタ打ちしていきましょう。
2.アーティキュレーションを置き換える
つぎに、演奏に必要なアーティキュレーションを選定し、レイヤー3に用意したアーティキュレーション専用音色に置き換えていきます。
アーティキュレーションを置き換える際の考え方、手順については以下の記事をご活用ください。
3.レイヤー1をレイヤー2にコピー
アーティキュレーションの置き換えが完了し、レガート系のノートだけが残ったレイヤー1を、そのままレイヤー2にコピーします。
4. レイヤー1&2にエクスプレッションを入力
コピーが完了したら、レイヤー1と2にそれぞれエクスプレッションを書いていきましょう。
このとき、レイヤー2のエクスプレッションの勾配を、レイヤー1よりもおおきく設定してあげることで、音量の変化に伴う自然な音色の変化を簡単に作り出すことができます。
5.さらにレイヤー3で細部を補強する
最後に、レイヤー3に用意したスピッカートをアタック感をプラスしたいポイントに重ねて、よりはっきりしたアタック感を作り出していきましょう。
これでレイヤリングの作業は終了です。
まとめ
というわけで、ストリングスのモックアップにおけるレイヤーの考え方、テクニックについて詳しく解説しました。
レイヤーを活用することで、1トラックでは実現不可能だった繊細で細やかな表情づけをいとも簡単に行うことができるようになります。
ストリングスのみならず、あらゆる楽器のモックアップに活用できるテクニックですので、ぜひ参考にしてみてください!
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