ストリングスアレンジの学習に必要な和声学の予備知識を学ぼう!
こんにちは、作曲家・稲毛謙介です。
今日は、ストリングスアレンジのうち「ホモフォニー型」と「ポリフォニー型」をマスターするのに欠かせない、和声学の前提知識についてお届けしようと思います。
ストリングスアレンジの学習を進める上で最低限知っておいていただきたい部分だけを簡潔にまとめておきますので、ぜひ参考にしてくださいね。
※こちらの内容は動画でも学習することができます。
和声学と四声体
和声学とは?
和声学というのは、クラシックにおける和音の進行と各声部の導き方について体系化された音楽理論です。
一般的なコード理論と違って、以下のような特徴があります。
- ソプラノ、アルト、テナー、バスという4つの声部のみを用いて書かれる(これを四声体という)
- 和音の響きだけでなく、各パートの横のつながり(メロディライン)についても言及される
要は、和音を取り扱うコード理論と、メロディの絡みを取り扱う対位法の間の子みたいなもんですね!
とくにストリングスとクワイア(合唱)に関しては、この和声学に基づいてアレンジされるのが一般的です。(もちろんオーケストラなんかでも役に立ちます。)
譜例の演奏
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四声体和声のストリングスへの置き換え
ストリングスと和声学の対応関係は以下の通りになります。
- 1st Violin → ソプラノ
- 2nd Violin → アルト
- Viola → テノール
- Cello → バス
※ContrabassはCelloの1オクターヴ下でバスの補強に使われることが一般的です。
複数の声部をあらわす呼称
ソプラノ、アルト、テノール、バスの四声体のうち、2つないし3つの声部をまとめて呼称する呼び方があるので覚えておきましょう。
- 外声 → 四声体のうち、最も外側の声部を表す呼称。主にソプラノとバスのこと。
- 内声 → 四声体のうち、内側の声部を表す呼称。主にアルトとテナーのこと。
- 上三声 → 四声体のうち、バスを除く3声部を表す呼称。主にソプラノ、アルト、テナーのこと。
- 下三声 → 四声体のうち、ソプラノを除く3声部を表す呼称。主にアルト、テナー、バスのこと。
ストリングスアレンジ5つの型のうち、「外声特化型」というものがありますが、これはその名の通り「外声」だけを担当するストリングスアレンジの形態を指します。
和声学のルール
和声学の配置(=ボイシング)
ポップスやジャズ同様に、和声学にも基本的なボイシングが存在します。
和声学では、ボイシングのことを「配置」と呼びますので、ここからは「配置」という言葉を使って解説していきます。
基本的な配置
和声学における基本的な配置は、以下の3つです。
- 密集配置 → 上三声が1オクターヴより狭い範囲で配置された形態。(≒クローズドボイシング)
- オクターヴ配置 → 上三声がちょうど1オクターヴで配置された形態。
- 開離配置 → 上三声がオクターヴより広い範囲で配置された形態。(≒オープンボイシング)
基本は「密集配置」か「開離配置」のいずれかで配置されることが多いですが、まれに「オクターヴ配置」が用いられることがあります。
また、原則として密集配置と開離配置の切り替えは、一度オクターヴ配置を経由してから行われるべきとされていますが、世の中そうそう都合よくはいかないものですので、あくまで基本的な約束ごと程度に覚えておいてください。
密集配置の響き
開離配置の響き
オクターヴ配置の響き
上声部のインターバル
前述した3つの配置のほか、上三声を構成する各声部のインターバルにも取り決めがあります。
密集配置やオクターブ配置の場合はあまり問題になりませんが、とくに開離配置において気をつけるべきことは、隣り合う声部同士のインターバルが常に1オクターブ以内に収まるよう配慮する必要があります。
つまり、ソプラノとアルト、アルトとテノールは常に1オクターヴ以内に収めてくださいということですね。(テノールとバスは問題ない。)
これを超えてしまうと、和音の充足感が薄れ、スカスカな印象になってしまうので注意しましょう。
正しい配置の例
間違った配置の例①
間違った配置の例②
間違った配置の方は、全体のサウンドに一体感がないことがお分りいただけるかと思います。
和声学の基本的なお作法
ここでは、和声学における基本的なお作法を3つ紹介します。
- 限定進行音を守る
- 原則としてコードトーンはすべて鳴らすこと
- 条件によっては省略して良い音もある
1.限定進行音を守る
限定進行音とは、主にドミナントコードにおいて、特定の音(トライトーン)を定められた解決先へ進行させることです。
ドミナントモーション(Ⅴ→Ⅰ、Ⅴ7→Ⅰ、Ⅴ9→Ⅰ等)における不協和音程の解決先は以下の通り限定されます。
- 【Ⅴ→Ⅰ】導音(ドミナントコードの3rd)は2度上行し主音に解決する。
- 【Ⅴ7→Ⅰ、Ⅴ9→Ⅰ】第7音(7th)および第9音(9th)は2度下行してそれぞれ第3音、第5音に解決する。
こちらは和声学に限らず、ポピュラーコード理論でもよく言われることなので馴染みの深い方もいらっしゃるかもしれませんね。
V→I:導音は2度上行
V7→I:7thが2度下行して3rdへ
V9→I:9thが2度下行して5thへ
2.原則としてコードトーンはすべて鳴らすこと
四声体でコードを演奏する場合は、原則としてコードトーンは全て鳴らしましょう。
トライアド(3和音)の場合は3つの構成音全てを鳴らしても1パート余るので、その場合は残った声部でルートを演奏しましょう。4和音の場合は、全てのコードトーンを演奏すればオッケーです。
3.条件によっては省略して良い音もある
特定の条件によっては、必ずしも全てのコードトーンを鳴らさなくても良い場合はあります。
その条件とは以下の通りです。
- 限定進行の影響で構成音全てを演奏できない場合
- テンション等の影響で構成音が5和音以上に及ぶ場合
その場合、は、以下のルールに従って音を省略することができます。
- 限定進行の場合は5度を省略
- 5和音以上の場合も、基本は5度を省略
- ベースがルート以外を演奏している5和音(=転開形)は、ルートを省略する
和声学の禁則
和声学にはいくつか、「禁則」と呼ばれる、避けたほうが良い進行があります。
これらの禁則は、四声体の美しい響きを妨げる(=声部同士のバランスが損なわれる)ことから禁止されているものですので、確固たる理由がなければ避けたほうが無難でしょう。
ただし、現代の音楽においてはテンションコードを多用した場合などにどうしても避けられない場合などもありますので、避けられる場合は極力避けるという認識で捉えておけばオッケーです。
代表的な禁則を2つご紹介します。
禁則①:連続5度、連続8度
連続5度、連続8度とは、2つの声部間で5度、8度の関係が連続することを指します。
例えば、4声部のうちアルトとテノールの間に完全5度が発生し、後続する和音においても同声部間において完全5度が連続した場合などを指します。
完全5度、完全8度という音程は、周波数比がそれぞれ1.5倍、2倍と協和度が高く、響きがキツくなる上に当該パートの強い癒着を生んでしまうため、四声のパワーバランスを崩してしまいます。
特定の2パートの協和関係が強まってしまうと、四声それぞれの独立性が失われバランスの悪いサウンドに聞こえてしまうということですね。
連続8度の例
もはや和声というよりユニゾンしちゃってるかのようなイメージになりますね。
連続5度の例①:完全5度→完全5度
後続の和音の響きがキツく感じられるのではないかと思います。
連続5度の例②:減5度→完全5度
完全5度同士の連結だけでなく、減5度→完全5度の連結もNGです。やはり後続の和音がキツく感じられます。(ちなみに、完全5度→減5度の連結は問題ありません。)
禁則②:並達5度、並達8度
こちらは連続ではなく、2声部が並行(同じ方向に並んで進行)するときに、後続の和音に完全5度、または完全8度の関係ができてしまう状態を指します。
この並達が問題とされるのは、以下の2つの条件が揃った時のみです。
- 外声間に並達が生じた場合 → ソプラノとバスの間で並達が生じた場合。
- ソプラノが跳躍進行した場合 → ソプラノが3度以上の音程で進行した場合。
この問題は、ソプラノとバスの間でのみ、かつそれぞれが並行した場合にのみ起こる問題なので、ソプラノとバスを極力反行(逆向きに進行させる)させておけば問題になることはありません。覚えておきましょう!
ソプラノが順次進行している並達8度(OKなやつ)
こちらは何の問題もありませんね。よく聞く響きです。
ソプラノが跳躍進行している並達8度(NGなやつ)
若干ですが、後続の和音がキツく聞こえるのがお分かりいただけるでしょうか?
ソプラノが順次進行している並達5度(OKなやつ)
こちらもよく聞くカデンツです。
ソプラノが跳躍進行している並達5度(NGなやつ)
こちらも若干後続の和音の響きが唐突な感じになってしまっていると思います。
このように、禁則を犯してしまうと和音のバランスが崩れて美しく響かないため、なるべく避けるよう心がけましょう。
まとめ
というわけで、これからストリングスアレンジを学習していくために必要な和声学の知識をご紹介しました。
和声学自体非常に奥が深いものですが、本サイトのストリングス特集においては、今日ご紹介した知識さえしっかりインプットしていただければ問題なく学べるように設計してあります。
今日お伝えした和声学の知識をしっかりインプットして、以後の学習を効率よく進めていきましょう!
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