高度なテクニック①:楽器の苦手分野をあえて活用したオーケストレーション
こんにちは、OTOxNOMA認定講師・作曲家の吉岡竜汰です。
今日からは、より高度なオーケストレーションテクニックについて解説していきます。
初回は、楽器の苦手分野をあえて活用したオーケストレーション事例についてまとめました。
- 短所は時として強みになる
- 音域による特性を活用しよう
- 不得手な音域を活用したオーケストレーション例
これまでもご紹介した通り、楽器にはそれぞれ得意不得意があります。
そのうち、苦手な部分をあえて活用することで効果的なオーケストレーションを実現している例が数多く存在します。
もちろん乱用は禁物ですが、正しく活用することでオーケストレーションの幅がグッと広まります!
ぜひご活用ください。
高度なテクニック①:楽器の苦手分野をあえて活用したオーケストレーション
短所は時として強みになる
何にでも言えることかもしれませんが、「短所」や「弱点」と呼ばれる要素は、捉え方ひとつでポジティブな要素へと姿を変える可能性を秘めているものです。
これは楽器に関してもいえること。
とくにオーケストレーションにおいては、楽器の不得意な部分を逆手にとったアレンジを行うこともよくあります。
例えば、トランペットの最高音域付近の音は弱く演奏することが非常に困難なため、大音量での演奏が前提となりますよね。
このことを「弱く演奏できない」と捉えるとデメリットのように感じてしまいますが、見方を変えれば「この上なく目立ちやすい音」であると考えることもできます。
つまり、大人数・大音量のオーケストラの中でも決して埋もれることなく、しっかりと抜けて聞こえてくれるわけです。
例えば、オーケストレーション実践の教材曲におけるクライマックス部分では、1stトランペットがかなり高い音域を演奏しています。
とくに、曲中使用している最高音「Bナチュラル」の音は発音も難しく、決して乱用していい音ではありません。
しかし、そのサウンドは非常に力強く輝かしいものでもあり、クライマックスをより華やかにする上でこの上ない特性となって楽曲を盛り上げてくれています。
実際に音源を聞いていただくと、たった1本のトランペットが抜群の存在感でメロディを牽引しているのがお分りいただけると思います。
本カリキュラム前半の楽器法の解説では、原則として中音域を中心としたアレンジを推奨してきましたが、学びを積み上げる中で楽器の基本的な扱いに慣れてきたら、あえてその楽器が不得意としている要素に目を向けてみることで新しい選択肢が見つかるはずです。
音域による特性を活用しよう
前述の通り、不得意な分野でも見方を変えることで効果的な用法として昇華させることができます。
とはいえ、どんなものでも必ずポジティブな運用ができるとは限りません。
例えば、運指の問題で演奏不可能なトリルがある場合など、物理的な制約が伴う場合はどう頑張っても覆すことはできませんね。
そこで今回は、活用しやすい「不得手」のひとつとして「音域」にフォーカスして解説して行こうと思います。
各楽器、不得手な音域においては大きく分けて以下の2つの制限を受けることになります。
- 演奏(=発音)難易度上昇に伴う表現の幅の制限
- 音量コントロールの制限
いずれの場合も、演奏こそ可能ではあるがその自由度は極端に下がる傾向があるということがわかります。
このことをさらに深掘りしていきましょう。
演奏(=発音)難易度上昇に伴う表現の幅の制限
各楽器の最低音域、または最高音域付近は、そもそも発音すること自体難易度が高いものであることはこれまで何度も解説してきた通りです。
音を出すだけで一苦労なので、演奏表現まで気を配るのが困難。
その分表現の幅に制限が生まれてしまうというわけです。
しかしながら、その特徴をあえて採用することで、「つたない演奏」や「苦しそうな演奏」といったニュアンスを表現している楽曲なども存在します。
その実例は後ほどご紹介します。
音量コントロールの制限
楽器の構造上、不得手な音域では音量のコントロールが効きにくい点も挙げられます。
大抵の場合、低い音域では大音量を出すことが難しく、逆に高い音域では小さい音量を出すことが難しくなります。
この特徴は楽器の発音原理や構造上仕方のないもので、何も考えずにその音を演奏させれば「自然と」その音量で演奏することになるわけです。
裏を返せば、その音量を最も自然なニュアンスで演奏ができる音域と捉えることもでき、それを効果的に用いたオーケストレーションも存在します。
こちらも、この後実例をご紹介していきます。
不得手な音域を活用したオーケストレーション例
ここからは、不得手な音域を活用したオーケストレーションの実例をご紹介していきます。
音域による演奏表現の制限を活用した例
ストラヴィンスキー『春の祭典』冒頭部分
ストラヴィンスキー作曲『春の祭典』冒頭では、バスーンとしては通常用いることの少ない超高音域を用いることで、聴衆の意表をつく大胆なアレンジを施しています。
この曲の初演を聞いた作曲家サン=サーンスは「楽器の使い方を知らない者の曲は聞きたくない」といって会場を立ち去ったという逸話も残っているほど、大胆な所業だったようです。
観客からもブーイングの嵐だったそうですが、ストラヴィンスキーの意図としてはある意味バッチリだったとも言えます。
ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲』冒頭部分
かのドビュッシーも『牧神の午後への前奏曲』の中で、あえて不得意な音域を活用しています。
この曲では、フルートの構造上響きのよくないとされる「C#」の音をあえて使用することで、独特の気怠さ、アンニュイなイメージを表現しています。
輝かしい音色の高音域では決して出せないようなぼんやりとした音色が、この曲の雰囲気を大いに助長してくれています。
音域による音量コントロールの制限を活用した例
ラヴェル『ボレロ』
オーケストレーションの参考にしたい名曲の記事でも登場したオーケストレーションの魔術師・ラヴェルの名曲『ボレロ』です。
まず先に、この曲の構成について簡単に解説します。
お聴きいただけば分かるとおり、この曲の構成は非常にシンプルなものです。
たった2つのテーマを十数分に渡り繰り返し、最後にフィナーレを演奏して終えるという大胆な構成。
極めて小さな音量からスタートして徐々にクレッシェンド、最後は壮大なフルオーケストラで締めるわけですね。
それを踏まえた上で、今回はその冒頭部分にご注目ください。
曲中もっとも小さな音量で演奏される冒頭部分は、テーマを提示する超重要パートとしてフルートソロが抜擢されています。
ここで使われている音域はフルートにとっては低音域に該当するもの。
つまり、強い音量での演奏はほぼ不可能なわけです。
あえて小さな音量しか出せないフルートの低音域にテーマを任せることで、自然に音量を抑えてテーマを提示させることに成功しています。
フルート以外の木管楽器でも十分演奏可能な音域・フレーズですが、あえてフルートに任せているのには明確な意図があるのですね。
まとめ
というわけで、楽器の不得手を活かしたオーケストレーションについて解説しました。
不得手な音域は演奏が難しいことに変わりはないので乱用は禁物ですが、うまく活用することさえできれば、非常に効果的で印象深いサウンドを作ることできるということがお分かり頂けたと思います。
楽器の音域ごとの特徴を改めて見直しながら、独自の活用法を研究されてみてはいかがでしょうか?
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