楽曲全体のオーケストレーション実践テクニック!
こんにちは、OTOxNOMA認定講師・作曲家の吉岡竜汰です。
今日は、前回解説したクライマックスのオーケストレーション実践に引き続き、楽曲全体のオーケストレーション実践テクニックについて解説していきます。
- スケッチを元に完成形のイメージを検討する
- 各シーンごとにオーケストレーション実践
各シーンにオーケストレーションを施していく流れはクライマックスで行った手順と同じですが、今回はその範囲が楽曲全体に及びます。
曲の構成をしっかり確認しながらアレンジしないと、各シーンの繋がりが不自然になったり、メリハリのないオーケストレーションになってしまうことも。
今日の記事では、そのような楽曲全体の流れを考慮したオーケストレーション実践テクニックを解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください!
楽曲全体のオーケストレーション実践テクニック!
スケッチを元に完成系のイメージを検討する
作業を始める前に、スケッチを元に完成形のイメージを検討していきます。
楽曲の構成、流れを踏まえながら、
- クライマックスに至るまでどのような展開にしていくか?
- クライマックスからいかにしてエンディングにつなげるか?
など、自然でメリハリの効いたアレンジに仕上げるための作戦を練っていくわけです。
今回の楽曲は大きく分けて5つのシーンに分かれておりますので、各シーンごとにざっくりとしたアイディアをメモしていきます。
【楽曲全体のイメージ】
ファンタジー作品のオープニングのような、壮大さとワクワク感が感じられる楽曲。
【各シーンごとのイメージ】
- イントロ:静かな伴奏とソロによるテーマの提示。後半は盛大なファンファーレで盛り上げつつAへつなげる。
- A:テーマを反復してフレーズを印象付ける。ワクワク感のある印象に仕上げたい。
- B:Cの壮大さを際立たせるべく静か目なアレンジに。後半で一気に盛り上げながらCへつなげる。
- C(A’):厚めのオーケストレーションで壮大にテーマを演奏。後半は転調させてクライマックスへ。
- エンディング:クライマックスのエネルギーを受け継ぎつつ、イントロのファンファーレを経て幕を閉じる。
上記のイメージを元に各シーンのリファレンスを選定、アレンジを進めていきましょう。
イントロ前半
楽曲冒頭は静けさを感じる雰囲気でスタート。
同時に、楽曲のテーマを木管楽器によるソロで聴かせていきたいと思います。
イントロ前半のリファレンスは、ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』第2楽章を選んでみました。
リファレンスではイングリッシュホルンがソロを担当していますが、自作曲に落とし込む場合は好みの楽器に割り当ててOKです。
今回は木管楽器を交代させながら展開していくことにしました。
最後のフレーズを繰り返す部分では、やまびこのように余韻が鳴響くイメージでホルンソロを割り当てています。
【イントロ前半割り振り】
- 1stフルート、1stオーボエ、イングリッシュホルン、1stクラリネット:交代でメロディ
- ストリングス:ハーモニー
- 1stホルン:最後のメロディソロ
イントロ後半
イントロ後半では、テンポを上げてクレッシェンドしながらファンファーレへと繋げて行きます。
楽曲を一気に盛り上げたいときは、ロングトーンをクレッシェンドさせたり、駆け上がりフレーズを用いるのが常套手段。
ハープのグリッサンドなども非常に効果的です。
直後のファンファーレは、物語の幕開けにふさわしい華やかな印象にしたいですね。
ここでは、グリーグの『交響舞曲』冒頭をリファレンスに。
木管による装飾フレーズをバックに、金管のファンファーレが映えるオーケストレーションをしていきます。
原曲のオーケストレーションでは重厚な印象を醸し出していますが、今回のシーン華やかさと推進力を重視すべく、以下のようなアレンジを加えてみました。
【原曲】
- 木管:装飾フレーズ(ハーモニーの役割も含む)
- ホルン:ファンファーレ(メロディ)
- その他金管:アクセント(リズムとコード)
- ストリングス:アクセント(リズムとコード)
【自作曲】
- 木管:装飾フレーズ(ハーモニーの役割も含む)+駆け上がり・下がり
- ヴァイオリン、ヴィオラ:ハーモニーの刻み+駆け上がり・下がり
- トランペット:ファンファーレ1
- トロンボーン、チューバ、チェロ、コントラバス:ファンファーレ2
- ホルン:ファンファーレ3
- ヴァイオリン、ヴィオラ:ハーモニー、駆け上がり・下がりの装飾フレーズ
- 合わせシンバル、コンサートバスドラム、ドラ :曲の盛り上がりサポート
- ティンパニ、チューブラーベル:ファンファーレ3を補強するような合いの手フレーズ
- トライアングル:木管のトリルに合わせてロール奏法
ファンファーレを1つのパートに任せるのではなく、フレーズごとに担当を変えたり音域を分けたりしながら掛け合いのようにアレンジしています。
これにより、華やかさや推進力を出すのが狙いです。
さらに打楽器やストリングスのフレーズも加えて全体的に非常にきらびやかな印象になるようにしています。
シーンA
イントロ後2小節の伴奏を挟んで、シーンAに移り変わります。
この曲のテーマメロディを提示する重要なシーンです。
音量的には一度落ち着かせ、軽快な印象に仕上げたいところ。
ここでは、2つの楽曲をリファレンスにアレンジを考えていきたいと思います。
1つめは、ショスタコーヴィッチの『交響曲第5番』第4楽章、39:14付近から。
伴奏パートの歯切れのよいリズムがシーンAに合っているのですが、全体的に音域が高く緊迫感のある印象を受けますね。
よって、この曲はリズムを中心に参考にさせてもらいつつ、使う楽器や役割の割り振りは別な楽曲を参考にしようと考えました。
2つめのリファレンスは、リムスキー・コルサコフの『シェヘラザード』第1楽章、1:32付近から。
ストリングスとクラリネットの組み合わせや、後半の盛り上がっていく展開などがシーンAのイメージにマッチしたことから採用となりました。
このように、いくつかのリファレンスを組み合わせて使用することも有効な手段となります。
上記2つのリファレンスをもとに、以下のような割り振りを行いました。
【シーンAの割り振り】
- フルート:合いの手の装飾フレーズ
- オーボエ、1stヴァイオリン:後半の16小節でメロディ
- クラリネット、2ndヴァイオリン:メロディ
- ホルン:テーマが入る前の2小節と後半16小節のリズム・ハーモニー
- ヴィオラ:リズム・ハーモニー
- チェロ:リズム・ベースライン
- コントラバス:ベースラインの一部をピチカートで補強
- スネア・ティンパニ:合いの手の装飾フレーズ
2つのリファレンスを組み合わせたことで、リズム感をしっかり立たせつつ緊迫感を和らげることに成功。
ワクワク感や高揚感が感じられる雰囲気に仕上がりましたね。
最初の2小節で登場するホルンの刻みは、『交響曲第5番』第4楽章のオーケストレーションを参考にしています。
イントロのファンファーレの残り香のように使用し、テーマが入る前に消えていく流れになっています。
シーンB前半
シーンBでは、Aで提示したテーマとは別に新たなフレーズが登場します。
伴奏のスタイルもガラッと変えて、新しい印象を持たせたいところ。
ここでは、ビゼーの『カルメン』1:26付近から登場する、ピチカートの伴奏フレーズを中心としたオーケストレーションを参考にさせてもらいましょう。
以下のような割り振りになりました。
【シーンB前半の割り振り】
- 木管:メロディを交代で演奏
- ヴァイオリン、ヴィオラ:リズム・ハーモニー
- チェロ、コントラバス:リズム・ベースライン
- トライアングル、タンバリン:リズムのサポートと雰囲気作り
- ハープ:ハーモニー+雰囲気作り
リファレンスでは、ピチカートを使って和音の塊を演奏していますが、シーンAから変化をつけたい&躍動感が欲しいという2つの理由から、アルペジオ中心の動きのある伴奏に変更しています。
また、Aパートがテーマをしっかりと提示するホモフォニー的なアレンジだったので、ここでは対をなすイメージでポリフォニー的な要素を加えたいと考えました。
いわゆる「追いかけっこ」風にメロディの後追いをするオブリガートも散りばめてみました。
シーンB後半(キメ直前)
シーンB後半のうち、C直前のキメより前の部分について考えていきます。
このシーンでは、キメに向かって徐々に高揚感を高めるイメージでアレンジしていきましょう。
ここではあえてリファレンスを立てず、これまでに学んだ基礎的なお作法を使ってアレンジをしてみました。
以下のような割り振りとなっています。
【シーンB後半(キメ直前)の割り振り】
- 1stフルート、1stクラリネット:最初のメロディ
- 2ndフルート、2ndクラリネット:合いの手装飾フレーズ(軽快さと色彩感を求めて)
- オーボエ:途中からメロディ(全体の音量を徐々に上げていく意図で追加)
- バスーン:リズム・ベースライン(低音弦のピチカートとユニゾン。B前半との差別化)
- ホルン:リズム・ハーモニー、途中からオブリガート
- トランペット:キメ直前のみメロディ(盛り上げ部分の最後に加えることで一気に華やかに)
- トロンボーン:ホルンがオブリガートになるタイミングでリズム・ハーモニー
- チューバ:チェロがオブリガートになるタイミングでリズム・ベースライン
- 1stヴァイオリン:途中からメロディ(オーボエと同じ目的)
- 2ndヴァイオリン:最初のメロディ
- ヴィオラ:途中からメロディ(オーボエと同じ目的)
- チェロ:リズム・ベースライン、途中からオブリガート
- コントラバス:リズム・ベースライン
- スネアドラム、タンバリン:途中からの推進力、勢いをつけるためのフレーズ
- その他打楽器:盛り上げサポート
徐々に楽器数を増やしながら音量アップ、さらに使用する音域も広げながら楽曲を盛り上げています。
シーンB後半(キメ部分)
シーンB最後のキメでは、チャイコフスキーの『ロミオとジュリエット』6:41付近〜を参考にしました。
やっていることは非常にシンプルなので、そのまま自作曲に置き換えても大丈夫そうですね。
さらに、打楽器も追加してアクセントを強調。
最後は、Cの接続を意識してティンパニ&スネアでブレイクを挿入。
イントロでも用いたような助走フレーズにつないでいきます。
【シーンB後半(キメ部分)の割り当て】
- 木管、チューバ以外の金管:キメのアクセント(リズム・ハーモニー)
- コントラバス以外のストリングス:キメ+合間を縫うフレーズ(リズム・ハーモニー)
- コントラバス、チューバ:キメのアクセント(リズム・ベースライン)
- スネアドラム、ティンパニ、合わせシンバル、コンサートバスドラム:キメのアクセント補強
シーンC前半(クライマックス前まで)
シーンC前半では、イントロやAで登場したテーマフレーズが再登場します。
シーンAのオーケストレーションを踏襲しつつも、より力強く壮大なサウンドになるよう仕上げていきましょう。
【シーンC前半の割り振り】
- フルート、ピッコロ:合いの手の装飾フレーズ
- オーボエ、1stクラリネット、1stヴァイオリン:メロディ
- 2ndクラリネット、2ndヴァイオリン、ヴィオラ、ホルン:メロディ(オクターブ下)
- トロンボーン:リズム・ハーモニー
- チェロ、コントラバス、チューバ:リズム・ベースライン
- タンバリン:リズム補強
- ティンパニ、合わせシンバル、コンサートバスドラム:盛り上げサポート
シーンC前半の後に転調。
そのまま前回アレンジしたクライマックスへと繋がります。
シーンCクライマックスの後半
前回の記事はクライマックス(転調後)最初の8小節のみの解説にとどめていました。
それはクライマックス後半には前半とはまた違ったアレンジを仕込んでいたので、解説が煩雑になるのを避けるため。
クライマックスの後半は一旦少しだけ音量と楽器数を落とし、その後に引き伸ばされたテーマフレーズとともに、一気に音量を上げてもうひと盛り上がり作る流れになっています。
ここではホルンがかなり高い音域を主体としたオブリガートを吼えるように鳴らし、クライマックスをさらに盛り上げています。
シーンC全体をつなげるとこんな感じです。
エンディング
いよいよ最後のシーン。
クライマックスの盛り上がりを引き継ぎ、盛大に曲を締めたいところです。
イントロのファンファーレやBで用いたキメを再登場させ、曲の統一感を出しつつフィナーレを盛り上げていきます。
最後にテーマフレーズの一部を挿入している点も楽曲の統一感アップに一役買ってくれていますね。
そのまま壮大にフルオーケストラのアクセントでキメて終わりです!
ファンファーレのオーケストレーションは、イントロをほぼそのまま流用していますが、転調している分そのまま使っても以前より盛り上がった印象になります。
その後のキメ部分はBパートで登場した時よりも倍の尺を使って盛り上がりを演出。
後半では打楽器を使って変化をつけています。
曲全体を聞いてみよう
楽曲全体のオーケストレーションが済んだところで、改めて全体を聞いてみましょう。
ピアノスケッチと聴き比べてみるとさらに面白いですよ!
ピアノスケッチ
スケッチスコアのダウンロードはこちら
フルオーケストラ
フルスコアのダウンロードはこちら
壮大でワクワクするアレンジに仕上がりましたね!
まとめ
というわけで、楽曲全体に渡るオーケストレーションの実践テクニックを解説しました。
クライマックスからの逆算で全体のイメージを固めた上で、各シーンごとにリファレンスを選定、アレンジする一連の流れがおわかり頂けたと思います。
楽曲全体をオーケストレーションするのはなかなか大変な作業ではありますが、その分完成した時の達成感もひとしお。
これまでに学んだことを総動員しながら、あなたもぜひチャレンジしてみてくださいね!
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