ハイブリッドコード基礎編:ハイブリッドコードの特徴と選定方法を理解しよう!
こんにちは、作曲家・稲毛謙介です。
今日は、3種のコンパウンドコードのうち、「ハイブリッドコード」の基礎知識について解説していきます。
- 転回形とハイブリッドコードの違い
- ハイブリッドコード3つの特徴
- ハイブリッドコードの選出方法
- サブドミナント/Vの成り立ち
「サブドミナント/V」に代表されるハイブリッドコードは、その特徴から、メジャーともマイナーともとれない独特のサウンドを持っています。
対応するコードと置き換えて使うことで、ハイブリッドコード特有の洗練された響きを取り入れることができますので、リハーモナイゼーションの幅も格段にアップします。
しっかりマスターしていきましょう!
ハイブリッドコードの基礎知識
コードの転回形とハイブリッドコードの違い
前回の記事でもおつたえしましたが、「コードの転回形」と「ハイブリッドコード」は、一見すると非常に似ています。
しかしながら、両者には明確な違いがあることを覚えていますか?
コードの転回形は、あくまでコードトーンのいずれかをベース音に持ってきただけで、ルートが置き換わるわけではありません。
一方で、ハイブリッドコードの場合は、ベース音が必ず「ルート」として扱われます。
- コードの転回形 = コードトーンのいずれかがベース音になるだけでルートは変わらない
- ハイブリッドコード = ベース音が必ず「ルート」として扱われる
このことをもう少し詳しくみていきましょう。
転回形「D7/C」とハイブリッドコード「D/C」の違い
下図をご覧ください。
D7/C(or D/C)
譜例にある「D7/C」と「D/C」は、楽譜上は全く同じ音符が並んでいます。(サウンドも全く一緒です。)
しかし、「D7/C」はD7の第七音をベース音としたコードの転回形であるため、ルートはあくまで「D」となります。
それに対して、ハイブリッドコードである「D/C」は、ベース音「C」がルートであるため、その構造としては「C(9,#11,13)」というコードから3rdと5thが省略された形と考えることができます。
これが意味するところは、両者の和音の機能が全く異なるということです。
D7の転回形である「D7/C」の機能は、セカンダリードミナントである「V7/V」(=サブドミナント)となります。
対して、ハイブリッドコード「D/C」は、あくまで「I」であるため、トニック機能を持つImaj7の代理和音として使用することができます。
このように、コードの転回形とハイブリッドコードでは、仮にその構造が全く同じであったとしても、意味合いが全く異なることを覚えておきましょう!
ハイブリッドコード3つの特徴
ここからは、ハイブリッドコードの3つの特徴をご紹介していきます。
ハイブリッドコードが持つ3つの特徴は以下の通りです。
- ベース音は必ずルートとして扱う
- 和音の種類にかかわらず、3rdを含まない
- 対応するコードと置き換えて使える
G/C
1)ベース音は必ずルートとして扱う
前述の通り、ハイブリッドコードのベース音は必ず「ルート」になります。
例えば、上図の「G/C」であれば、ルートはあくまで「C」。
それに、「5th」「maj7」「9th」が加わったものとして解釈します。
【補足】つまり「G(11)」の転回形ではないということですね。そもそもテンションノートをベース音に持ってくることはできませんので、そちらも覚えておきましょう。
2)和音の種類にかかわらず、3rdを含まない
ハイブリッドコード2つ目の特徴としては、3rd(第三音)を含まないということです。
例えば上図の「G/C」ならば、メジャー3rdである「E」が省略されています。
第三音は、そのコードがメジャーかマイナーかを決定する重要な音。
しかし、あえてその第三音を省略することで、メジャーともマイナーともとれない曖昧で浮遊感のある響きを得ることができます。
これがハイブリッドコードのサウンドの要となっています。
3)対応するコードと置き換えて使える
ハイブリッドコード3つ目の特徴は、対応するコードと置き換えて使うことができるという点です。
上図「G/C」は、「Cmaj7」や「Cm7」といった、トニックコードの置き換えとして使用することができます。
これにより、リハーモナイゼーションの幅が格段にアップします。
ハイブリッドコードの選出方法
ここからは、どのようにしてハイブリッドコードを選べば良いのか、具体的な手順をご説明します。
これまでに学習したテンションやコードスケールの概念が理解できていれば楽に導き出すことができると思います。
それでは早速いってみましょう!
ハイブリッドコード選出3つの手順
ハイブリッドコードの選出手順は、以下の通りです。
- コードスケールを選出する
- コードスケールから「ルート」「3rd」「アヴォイドノート」を除外し、残りのノートでトライアド(またはテトラッド)を作る
- 2で作ったコードに、ベース音としてルートを加える
非常にシンプルですね!
実際にCmaj7の置き換えとして使用できるハイブリッドコードを作ってみましょう。
1. コードスケールを選出する
Cmaj7で使用できるコードスケールは、「Cイオニアンスケール」でしたね。
こちらのコードスケールをもとに、ハイブリッドコードを選出していきます。
2. コードスケールから「ルート」「3rd」「アヴォイドノート」を除外し、残りのノートでトライアド(またはテトラッド)を作る
次に、先ほど選出したコードスケールから、「ルート」「3rd」「アヴォイドノート」を除外していきます。
それにより、
- ルート =「C」
- 3rd =「E」
- アヴォイドノート =「F」
の3つの音が除外され、残りは「D」「G」「A」「B」の4つのノートのみとなりました。
この4つのノートを使って作ることができるコードは、「G」ということになります。
3. 2で作ったコードに、ベース音としてルートを加える
最後に、2で作ったアッパーストラクチャー「G」に、もともとのルートである「C」を加えて完成です。
G/C
サブドミナント/Vはどうやってできているのか?
ここで、中級編初頭でご紹介した、V7の代理和音「サブドミナント/V(「IV/V」「IIm/V」)」がどのような手順でハイブリッドコードとして選出されているのかも考えてみましょう。
まずはCメジャーのV7である「G7」で使用できるコードスケールを考えてみます。
G7で使用できるコードスケールは、「Gミクソリディアンスケール」でしたね。
このうち、「ルート」「3rd」「アヴォイドノート」の3つを除くと、「A」「D」「E」「F」となります。
これらを使うことで「Dm」の和音を作ることができますので、あとはルートである「G」を加えれば「Dm/G」(つまりIIm/V)の完成です。
Dm/G
しかし!
これだけでは、もう一つのサブドミナント/Vである「F/G」(IV/V)を作ることができません。
どういうことでしょう??
サブドミナント/Vは「V7sus4」から選出したハイブリッドコード
実は、サブドミナント/Vは、V7ではなく「V7sus4」から導き出したハイブリッドコードなのです。
「V7sus4」のコードスケールは、「V7」と同じく「ミクソリディアンスケール」です。
しかし、同じミクソリディアンスケールでも「V7」と「V7sus4」ではアヴォイドノートが若干変わります。
「V7」ではアヴォイドだった「11th」ですが、「V7sus4」ではすでにコードトーンに含まれているためアヴォイドではなくなります。
むしろ「Sus4」と混在できない「3rd」こそがアヴォイドノートとなるんですね。
したがって、「G7sus4」から「ルート」「3rd」「アヴォイドノート」を除いた残りのノートは、「A」「C」「D」「E」「F」の5つとなり、アッパーストラクチャーの候補として「C」を使用できるようになります。
これにより、
「Dm/G」「Dm7/G」「F/G」「Fmaj7/G」「Am/G」
といった多彩なハイブリッドコードを使用することができるようになります。
Dm/G
Dm7/G
F/G
Fmaj7/G
Am/G
このように、V7に対してハイブリッドコードを作る際には、いったん「V7sus4」に置き換えた上で考えると、使用できるノートの幅が広がって便利です。
さらにオルタードテンションを加えると?
さらに!ドミナントコードには自由にオルタードテンションを加えることができますので、ハイブリッドコードの選択肢はさらに広がります。
ただし、ここで1点注意が必要です。
オルタードテンションのうち「#9」は、「マイナー3rd」と同じ音です。
「#9」を加えてしまうと、ハイブリッドコード3つの特徴のうち2つ目、「和音の種類にかかわらず、3rdを含まない」の意味がなくなってしまいますので、「#9」は使用することができません。
ですから、「#9」を除いた
「b9」「#11」「b13」
3つのテンションを、ハイブリッドコードの材料とすることができるというわけです。
これにより、ドミナントコードにおけるハイブリッドコードの選択肢はさらに広がります!
Dm(b5)/G
Dm7(b5)/G
Fm/G
Fm(maj7)/G
Faug/G
Faug(maj7)/G
Fm7/G
Ab/G
ぜひ、ご自身で様々な組み合わせを試しながら、お気に入りのサウンドを見つけていってくださいね!
まとめ
というわけで、ハイブリッドコードの基礎知識、およびその選出方法をお届けしました。
今日ご紹介した内容だけでも、実にさまざまなハイブリッドコードが生み出せることがお分かりいただけたのではないでしょうか?
今日の記事を参考に、自在に使いこなせるよう訓練していきましょう!
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